水野克俊インタビュー


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「自分が人を一番楽しませられるもの」 水野克俊


端正な白磁で多くのファンを魅了する水野克俊さん。
「かたち」を追い続ける水野さんの仕事は理想のかたちとその実現のための技術のせめぎあい。
5月企画展に向けては、いつも以上に自分のスタイルを追求してくれました。



花田:うつわづくりを志すようになったいきさつを教えて下さい。

水野:実家が造酒屋だったでしょう。
古いうつわ、掛け軸などが床の間に置いてあったり、
宴会などがあると子供の私にもお膳が用意されていたりと、
そうやってものに囲まれている内に、うつわに興味を持つようになった。とても楽しかった。

花田:宴会とうつわに囲まれて育った幼少青年期(笑)。で、やきものを作り始めるわけですね。

水野:そう、身近にあった「うつわ」というものが好きになりました。
そのものだけじゃなくて、それを囲む人々、酒を造る人、
料理、家全体の雰囲気などなど全部ひっくるめて。
僕にとっては、その中心にうつわがあったんだと思います。

花田:それで九谷青窯入社です。

水野:学校卒業した後、瀬戸の窯業学校入って、九谷青窯で世話になって、それで砥部のほうに行きました。
6-7年かな、青窯にいたの。

花田:砥部を選んだのは土が理由だと聞きました。

水野:自分のルーツである呉でやろうかとも考えたんですが、
目指すうつわを作ることができる土が砥部にちゃんとあることを確認できたんです。
砥部っていうと、分厚いイメージあるけど、土は薄くも挽ける。
釉薬は窯で溶かし過ぎると青白磁になっちゃうので、色々調節しながら今の色を出しました。
とろっとした雰囲気を出すためにね。で、そこの粘土屋さんに、どこか砥部あたりで場所ないですかって聞いたら、
今の仕事場である広田村を紹介してもらったんです。

花田:砥部には来たことあったのですか?

水野:通りがかったことはあったけど、よくは知らなかった。
砥部って分厚いもの作るんだろうなってイメージくらいしかなかった。

花田:そして、砥部で白磁というスタイルに行きつきます。

水野:九谷青窯をやめたあと、しばらく試行錯誤していました。
自分のやりたいものってなんだろう、一番自分に合っているものはなんだろう、
やきものを始めてから憧れていたものって何だろう、
って考え続け、色々試して、二、三年くらいかな。
で、自分が人を一番楽しませられるのは白磁だな、と。

花田: 白磁が一番しっくりくるのですね。

水野: 「かたち」が好きなんです。なんだか知らないけど、昔からかたちが好き(笑)。
学生の頃から東京出てきちゃ色々なかたちを見て回っていました。
特に、李朝や北宋の頃のもの。
そんな中で、白磁は自分の好きなかたちを表現するのに最もふさわしいと考えるようになりました。
古いものを見ていると、なにが自分に足りないか、よく見えてきますよ。
技術だけでなく感覚もね。
うつわ作りって、自分の技術ありきではなく、
目標とするものに合わせて技術を高めていくもんなんだな、そう思いました。

花田:焼き物の中でも、白磁にとって「かたち」は非常に重要な部分です。

水野:そりゃあ、絵付けもないし、そんなに「あじ」を楽しむ類のものでもない。
かたちだけの話じゃないけど、ベースをどこにするかって部分が大事。

花田: 伝統に学ぶ、と。古いものを見たり使ったりしているうちに、
自分の中に色々なものが蓄積されていきます。

水野:蓄積という意味では、僕にとってある意味、食べものも一緒です。
普段ちゃんと料理されたものを食べていたら、感覚で不味いものはわかるじゃない。
うつわも一緒。これは理屈じゃないんだけどね。
美味しいです、だって美味しいから。逆に、まずいです、だってまずいんだもんって。
そのあと、説明のための理屈が必要になることはあるかもしれないけどね。
「だって変だから・・・」って理屈の前に感覚的に判断することが大切。

花田:理屈ばかりだと、仕事していて楽しくないでしょうし。

水野:そうですね。特に僕は装飾のないシンプルな皿ほど心打たれる。すごいなって。
何でもないようなシンプルなうつわが人の心を掴むっていうのは、よほど芯がしっかりしているんだなと思います。
そうやって本質があればいいんだけど、ない場合はいろいろ装飾して誤魔化そうとしてしまう。

花田:あのピューター皿もヒットでした。あれもシンプルです。

水野:それが大変で、なんか慣れてきたら却って難しくなってきちゃった。
かたちの本質が見えたことによって目指すレベルも上がってしまった。

花田:歓迎すべきことです。

水野:やきものって一回一回が勝負なんです。
一回窯出ししてうまくいくか、いかないかで決まってしまう。
以前に失敗したことを引きずれもしないし、逆に上手くいったからと言ってそれが続くとも限らない。
その時その時で人を楽しませることができるかどうか。
継続して作るものも多いけど、原則一回一回、完成品として送るわけですから。
その度にそれらが人に楽しみを与えてくれなきゃ困るわけで。それだけです。
次はあるようで・・・でもやっぱりその時点その時点での「次」というものは無いんだ(笑)。

花田:さて、5月企画展の3つ。あのモッコ皿もきれいだし、飯碗もいいですね。
水野さんにとって「自分のために作るうつわ」とは?

水野:じぶんのためってのは、結局いつもの仕事と一緒です。
いつも「作りたいもの」を作っているから。自分が憧れているものに対して制作を続けているわけです。
私のためっていうのは、いつも通り。強いて言えば、より自分のスタイルに忠実なもの、かな。

花田:より一層水野スタイルです。

水野:とにかく、自分が作りたい、いいなあ、って思うものです。

花田:きれいで端正な水野さんらしいうつわができましたね。

水野:ありがとう。 でも白磁ばっかりやっているとね、たまにいいなって思います、赤絵とか染付とか。かわいいなあ、って(笑)。

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