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増渕篤宥さんインタビュー


増渕さんは昨年8月以来の展示会です。
前回は、増渕さんに幅広くお話しを伺いました。
今回は、現在の増渕さんの仕事の象徴とも言える「彫る」仕事についてお聞きしています。
増渕さんにとって「彫る」仕事とは。



「彫り」始める

花田: 彫りの仕事を始めたきっかけはなんだったのですか。(以下 花田-)

増渕: きっかけは東京国立博物館の常設です。
工芸品がズラリと並んでいるじゃないですか。
木工、金工、蒔絵なんかの超絶技巧系。
「あー、やってみてー!」って。

-: あそこ、ゆっくり見られますしね。

増渕: 「勝てないな、これは」と感じる反面、迫りたくもなるわけです。
「まあ、やれるところまでやってみるか」と。
じいさんの影響も強いかもしれません。

-: どういった影響ですか。

増渕: 学生の頃に鍛金、彫金を専攻し、晩年は木工などをしていて、彼の作ったものが家にゴロゴロあったんです。
そういう中で、槌目やノミ跡みたいなものの心地よさっていうのは、小さい頃から感じていました。

-: 焼き物という土俵で、そういうものに取り組むことになったわけです。

増渕: そう、自分には焼き物しかできない。
果たして、あれを焼き物で目指す必要があるのかと考えました。

-: 焼き物である理由とは?

増渕: 成形したものに、ノミの跡や、切ったり彫ったりした跡を残して、その上にガラス(釉)を乗せてカタチにするというのは、焼き物にしか出来ないだろうなって。
例えば七宝焼きなんかは食器としては使いづらい素材なので、難しいでしょう。

-: そして「彫る」仕事に邁進していくことになります。

「機械」と「人間の手」

-: 増渕さんの「彫る」仕事は、現在手作りと呼ばれるものの印象、皆が期待するものとは離れた位置にあると思います。
「手作り」っぽくは、ありません。

増渕: そう思います。

-: だからこそ、自分の手でやらなければいけない理由ってあると思います。
「機械でやったらこうはならない」っていう部分はありますか。

増渕: そう願いたいですね(笑)。
人間の手って、いい意味で狂うんです。
アタリ通りにもいかないし、そもそもアタリだってきっちり測ったわけではない。
でも、人の手って、そういう狂った時、勝手にごまかしてくれるんです。

-: ごまかす・・・。
言い換えれば、柔らかく修正してくれるわけですね。

増渕: そもそも、僕なんか47年間ごまかしながら生きていますからね。
ごまかしの人生ですよ・・・(笑)

-: 急にふざけないでください(笑)。

増渕: 一定の触れ幅を保ちながら、合わせるところには合わせていくことが大事だと思います。
点と点をきっちり合わせる作業は機械のほうが得意でしょうけど、複数の点を線にしていくのは今のところは人間に分があるんじゃないかなって思います。



原型を超えることはない

-: 増渕さんは大変な手間をかけてこの仕事をしています。

増渕: 型でやることを考えたこともあります。
でも、型モノだと、原型や型を超えることはないと思っています。

-: エッジが立たないし、ゆるくなる感じですか。

増渕: 原型があって、元型なり使用する型になっていく段階を経ることに、ぼやけていくんですよね。
で、型に粘土を打ち込んでいく工程で、また一つぼやけてしまう。

-: 型モノが悪いということではないと思うのですが、増渕さんが表現したいことのためには、こういう選択肢を取らざるをえない、ということなんでしょうね。

増渕: 型物のソフトフォーカスな感じもいいけど自分は原型です、やっぱ。

-: 増渕さんは原型をずっとやっていることになりますね。

増渕: 工業製品を見ていても、原型が一番格好いいですもの。
プロトタイプとか。
例えば、車のクレイモデルなんて、職人さんが直接削っているんですから。
そこからプレスラインを割り出していくわけじゃないですか。
で、技術や経済との折り合いをつけていく中で、かたちを妥協する部分も出てくる。
僕が彫りの仕事でやっていることって、ずっとプロトタイプですよ。



アタリをつける

-: 工程を追っていきましょう。
まず、アタリをつけます。
増渕さん、アタリをつけるときに、独りで何か喋っていますね。

増渕: 普段、妻がすぐそこに座って作業をしています。
僕は話しかけているつもりですが、返事が来ないってだけの話です。

-: (笑) 独り言ではないわけですね。
「どうしようかな」とか「こうしようかな」とか言っているじゃないですか。
奥様の位置からだと何を作っているか見えないし、話しかけかけられても相談に乗りようがないといった中での問いかけですね(笑)。


-: アタリをつける時、最初からある程度ヴィジョンは持っているのですか?
それともやりながら作り上げていく感じですか。

増渕: 「やりながら」かな。
いや、やりながらというか、はじめに大体決めていたことが、作業していくうちに変わってくるんです。

-: どういう時に変わるんですか。

増渕: 「いざやってみると、案外はまらないな」みたいな。
「じゃあ、こうしよう、でもこれだとくどいな」
「じゃあ、こうはしょって、すっきりさせよう」みたいな感じです。
毎回実験ですよ。

-: それが手作りでやることの面白さであると言うか、機械のようにパターン化させない楽しさですね。

増渕: はめ込んだら、それに合わせようとして自分がやりづらいですから。

-: アタリをつけるときに大事にしていることはなんですか。

増渕: (しばらく考えて) 書きすぎない・・・。
最初の頃は不安で、とにかくたくさん目標点を書いていたのですが、結局それだと何も見えなくなる。
刃物で引く線が本番なのに「アタリをつける」という予行演習をし過ぎて、自分が何番手で走っているのかさっぱり分からなくなってくる(笑)。
自分の下書きに惑わされるんですよ。

-: 本番前に練習で疲れちゃう学芸会みたいですね(笑)。

増渕: 結局のところ、始点と終点が決まっていれば、色々なことがその途中で起きても、収まるものなのです。

骨描き、或いは筋彫り

-: 続いて、筋を入れていきます。

増渕: 絵付けで言えば骨描きです。或いは筋彫り。

-: 筋を彫るときも、即興というか、フリーハンドな感じが良いですね。
深い、浅いといった部分を気にされていたようですが、次の工程に関わってくるのですか。
それとも見た目ですか。

増渕: 見た目には、ほとんど関係ありません。
ただ、刃を浅く差し込むと下にバリが残ってしまうし、深すぎると、筋彫りの切れ目のところが、裂けて広がってきてしまうので、丁度よくする必要があります。

-: 他に気を配っていることはありますか。

増渕: とにかく作業しているときに手がブルブル震えないようにすることで頭いっぱい(笑)。

-: (笑) さっきは、ブルブルしてなかったじゃないですか。
最初の頃ですか。

増渕: 筆を持つのは苦手なので最初はブルブル。
曲線が引けなくて苦労しました。
もともとは直線ばかりでしたから。

-: 瀬戸でも木賊ばかり描いていたっていう話でした。
木賊なら、寝ていても引けるって(笑)。

増渕: うん。引ける。直線だから。

スーッと鋤取るように

-: で、メインの・・・

増渕: 彫り込みですね。


-: 彫り方によって表情は変わってきますか。

増渕: やはり深さです。
最近はできるだけ浅く掘っています。
浅く長くなだらかに彫っていこうと思っていて。
いきなり深く彫り込むと、奥行が出ないんです。
単純な「ON」と「OFF」になっちゃうから。
スーッとすき取るように彫る感じです。

彫りぬかないこと!

増渕: あとは彫りぬかないこと(笑)

-: 抜けちゃうと隣にはみ出るってことですか?

増渕: 筋彫りより向こうに彫ったら、だらしなくなってしまう。
あれがカチッとしていることが重要です。

-: 彫る作業は、特にリズミカルでした。

増渕: どの作業でもリズムは大事です。

-: 中断はしないのですか?

増渕: 中断は禁物です。
途中でやめると、どこまでやったか分からなくなっちゃうから(笑)。

「オリジナル」と「コピー」

-: 新しい文様などはどのように考え出されるのでしょうか。
他の焼き物見たり、絵見たり、写真見たり・・・?そういうことからヒントを得ることもありますか。

増渕: 特に意識してないです。
絵でも、ものでも、何かをお手本に模しとれって言われると、たちどころに手が動かなくなる。
半面、制作の素材は日常の中にあって、普段見たものや経験したことの中からしか出てこないような気もします。

増渕: バンドもそうでした(増渕さんはロックバンドで音楽を志していたこともあります)。

-: バンドの話ですか(笑)。

増渕: 結局、コピーが出来ないからオリジナルを作ったんですよ。
焼き物も一緒。

-: 「オリジナルしかやらない」バンド、格好良いですけどね。

増渕: コピーが出来ないから自分で考えるほかないってだけです(笑)。

-: コピーしか出来ない人だっている。

増渕: 僕からすれば、出来る人は立派ですよ。
古典の模しなどができる人見ると、凄いなあって思います。



あまり人には言いたくないんだけど・・・

-: これから、目指していきたいことはありますか。

増渕: 恥ずかしくて、あまり人には言いたくないんだけど・・・やはりトーハクなんですよ。
なにかの展覧会で見た朝鮮の青磁の透刻の硯屏。
あれを作った人に勝ちたい・・・

-: 目標は高く。

増渕: 僕たちは出来上がった状態を見ているわけで目標とすることができます。
でも、作った彼らにとって最初にお手本は無いわけです。
なにも無いところから作り上げている。
すごいことです。
でも、同じ人間です。
素材や焼き方は別にして、ただ「彫る」作業だけなら、勝てないこともないのかなって希望は持ち続けたいです。

-: 当時、スペシャルな道具を使っているわけでもありませんよね、恐らく。

増渕: 今のほうがいい道具使えます。



いつも思っていること

-: 最後に「彫り」の仕事の魅力とは?

増渕: 正直に言っていいですか(笑)。

-: いいですよ。

増渕: 「なんでこんなこと始めちゃったんだろう」って思っている。

-: たまにそう思うわけですね。

増渕: いや、いつも思っている(笑)。

-: 増渕さんらしい最後の一言、有難うございました。



video

「彫り」の仕事  増渕篤宥 -Masubuchi Tokuhiro-
溢れ出る情熱と、並外れた集中力。
増渕さんの超絶技巧をご覧下さい。

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