平林秀幸さんインタビュー


ナイフへのきっかけ

花田:平林さんがナイフを作るようになった経緯を教えていただけますか。(以下花田-)

平林:元々、刀師に憧れていました。
親に話したら「進学校に通いながら、突然何を言い出すんだ」と(笑)。

-:言われたほうは「突然」でしょうね。
なぜ刀に興味を持たれたのですか。

平林:考古学や歴史も好きでしたし、当時池波正太郎にはまっていました。
親に心配もかけたくないし、一旦大学には行くことにしました。

-:刀への思いはどうなったのでしょうか。

平林:色々な人に相談したのですが「食っていけない」とか「危ない」とか「必要ない」とか…
そんな感じでした。
そんな中、あるエッセーで「フランスの電車で、現地の大学生の女性が徐にナイフとリンゴをカバンから出して、皮を向いて食べ始めるのを見た」という話を読んだんです。
自分が子供のころのことがみるみる思い出されてきました。
近くの野山でナイフを使って、竹でおもちゃを作ったり、木の実の皮をむいたり…。
一方で今の自分のまわりを見れば、刃物の危険さや特異さばかりが目立っているなと。
良くないニュースも見聞きしますしね。
「新入社員のほとんどがナイフで鉛筆を削れない」と鉛筆会社の人に聞いたこともありました。
そこから「道具としてのナイフはもっとマシなはずだよな」と思い始めたんです。

-:道具としてのナイフ…。

平林:震災の時にも「火をつけられない」という問題と共に「刃物が無いから色々なことができない」という話がありました。固いものを空けられないとか…。
そういう意味でも「持っていれば何とかなる」というのがナイフなんです。
僕は山が身近にある中で生まれ育ったので、刃物を持って出かけないとなんだか不安です。
例えば、野山に入る時「熊注意」なんていう貼り紙があってもナイフがあると安心感はあります。
実際戦えるわけではないんですけど(笑)。

平林秀幸さんインタビュー 2022

相棒として

-:平林さんにとってナイフを手作る意味とは何なのでしょうか。

平林:昔から日本は刃物の製造技術が高いです。打ち刃物を見ても分かりますよね。
そして、鉄などの材料そのものの質にもこだわる。
冶金という分野になりますが、様々な鉄鋼材があります。
シンプルに言えば鉄を固くするのは炭素なんですけど、クロムを入れて錆に強くしてステンレスにするとか、レアメタルを入れるとか、レーザー使うとか、プレスするとか、特殊な溶剤に入れるとか、焼き入れ後に超低温冷却するとか…。
もう本当に多種多様です。

-:平林さんはどの辺りの材料を使うことが多いのですか。

平林:材料はステンレスが一番多いです。それを手作業で切り出していきます。

-:平林さんが作るナイフは、使い手にとってどのようなものなのでしょうか。

平林:相棒…ですかね。長く付き合う愛車とか、なぜか履いてしまう靴のような。
包丁として使ったり、山仕事で使ったり…普段の雑用に使ってもらえれば何よりです。
それと、手作りのナイフというのは「多くの人にとって満遍なく便利」というよりは「一人一人の手に合わせていく」というほうに近いと思います。
目が悪い人ならそれなりに使いやすくしたり、独特な手の癖に合わせたりとか。
大量に作れない代わりに、小回りが利くのは手作りの強みです。
箸も似たようなところありますよね。人によって使いやすい箸は違う。

平林秀幸さんインタビュー 2022

アウトドアでも格好よく

-:全体のかたちについてはいかがですか。

平林:機能に加えて、見た目や雰囲気が魅力的で「所有欲」を感じられるような要素も大切だと思っています。

-:趣味の世界の部分もあります。

平林:最近アウトドアのアクティビティを楽しまれる方、多いですよね。
渓流釣りが好きな人で「いいナイフは落としたり失くしたりするともったいないからカッターを持って行く」と言っている方がいました。
ウエアや釣り道具はすごく格好いいものを使っているのに(笑)。
僕の知る限り、アウトドア派も意外と刃物には無頓着なので、わずかながらでも僕なりに格好いいナイフを広げていきたいです。

-:平林さんのナイフを「もったいないからアウトドアに持って行けない」という人の気持ちも分かります。だって、無くしたらショックですもの(笑)。

平林:嬉しい評価でもあるので、何とも言えないですね(笑)。

身近に感じてほしい

-:これからしていきたいこと、何かありますか。

平林:クリアすべき課題はあるのですが、ワークショップをやってみたいです。
折りたたみナイフを親子で使ってもらって、お父さんが子供に使い方を伝える、みたいな。

-:平林さんのように小さいころから身近に感じておくと、刃物への見方が変わりますね。

平林:長野に肥後守を入学祝いにプレゼントする小学校があるんですが、そこは廊下の手洗い場に砥石が置いてあって、自分たちで手入れするんです。
そういうこともワークショップでやってみたいなと思います。
最近は包丁などは、価格的にも本当に気軽に買えるので、切れなくなると買い替える人が増えているそうです。カッターの刃を取り換えるような感覚で。
出来れば自分で手入れをして自分の刃を作っていってほしいなと思います。

-:刃物の中でも、特にナイフについては、どうしてもリスクに目が行ってしまいます。

平林:ナイフって悪意のある使い方もできてしまいますし、デザインによっては攻撃的に見えてしまうかもしれません。イメージとしては「痛いよね」って。
僕としては、そのあとに「でも便利だよね」って思ってもらいたい。
相棒としての道具との付き合いも楽しんでほしいし、そうなるよう、これからも取り組んでいくつもりです。

平林秀幸さんインタビュー 2022

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