100,000羽のつばめ
花田: 初めてつばめの文様を描いたのはいつですか。(以下 花田-)
日下: 青窯に入って、1年目か2年目くらいだったと思います。
-: 13、4年描いていることになりますね。
なぜ、ツバメだったのですか。
日下: 何か、動きのある動物を描きたいと思っていました。
色々考えて、ツバメを描いてみたら「これだ!」と思えたので。
最初はこの5寸皿です。
楽しく、遊んでいるような感じで、配置しました。
で、枝に赤絵の実を入れて、実を狙って遊んでいる、という感じで描いたら、秦さん(九谷青窯主宰)が「ツバメは肉食だから、実は食べないぞ」って(笑)。
-: 秦さんぽい、一言ですね。
日下さん、どうしたんですか。
日下: 「いいんです、実で遊んでいるんです。食べているわけじゃありません」と、お答えしました。
-: (笑)。
描くときに気にするのは配置ですか。
日下: そうです。
料理を盛って、つばめが活きるように。
描き過ぎてもいけないので、数にも気を使いました。
-: 飛び交っているというのは、うつわに方向を作らないように、ということでしょうか。
日下: それもあったかもしれません。
-: つばめって、飛んでいる時、こういう印象でもありますよね。
赤い実も効いています。
この赤い点一つのために、ひと窯余計に焚いているわけです。
日下: 最近は下絵の赤も発色がいいのが出てきているので、試してみたのですが、やはり、雰囲気が違うんです。
-: つばめのうつわ、数え切れないくらい、作っていますね。
つばめも、10万羽は描いているでしょう。
それらのつばめは、日下さんにとって、一羽一羽違いますか?
日下: 違います。
全部の胴体と頭のバランスとか、羽がちょっと太すぎたな、とか。
頭が大きすぎたな、とか(笑)。
-: そうだったのですね(笑)。
これからは、一羽ずつもう少し注意深く見てみますね。
楽しそうです。
オリーブに込めた思い
-: 続いて、オリーブ。
確か、お友達の進路変更の際に・・・。
日下: そうです。
「実り多き人生を」という気持ちをこめてプレゼントしたのがきっかけです。
最初は二色の緑ではなく、黄色と緑にしたら、枯葉みたいになってしまって、門出らしくならなかったんです(笑)。
で、緑を二色に。
-: 実をつける植物が色々ある中で、なぜオリーブだったのですか。
日下: たまにオリーブの木って植えられているじゃないですか。
そういうものを見ていて「良いな」と思っていたんです。
-: 文様自体とても可愛いし、デフォルメの仕方も日下さんらしいのですが、例えば、この葉っぱの濃淡や、実の色など、気を使われたこと、何かありますか。
日下: 私は色絵でも、あまりいっぱい色を使うのは苦手なんです。
-: せいぜい3色くらいですね。
日下: 3色でも「多いなあ」と思いながら描いています。
好みだとは思うのですが、なるべく色の数を絞りたいと思っていまして・・・。
-: 構図も魅力的です。
どこから見ても面白いし、内側にも可愛く絵付けもしてある。
まずうつわの形を見て、頭の中でイメージを作るのですか。
日下: 私は、お皿への絵付けのアイデアはサッと当てられるんですけど、鉢に配置するのは時間が掛かってしまうんです。
でも、オリーブはスムーズにいけました。
-: ご自身で普段、よく使われているのはどちらですか?
日下: 深鉢(中)は愛用中です。
サラダ、具沢山のスープ・・・。
輪花
-: 続いて輪花をお願いします。
2年くらい前に、ヨーロッパの漆の黒いお皿を参考にしてもらった覚えがあります。
最初はこの赤と青でした。
日下: 渕線だけじゃ面白くないなと思って、花文様のものも加えました。
-: 数ある文様の中からこの花の文様を選んだのですか。
日下: 絵付けのアイデア・・・数ある中から選ぶことはありません。
私の場合、いつもネタはカツカツですから(笑)。
-: ご謙遜を(笑)。
その花、色々ありますよね。
日下: 最初は、普通の丸い花芯だけだったのですが、単調だったので、3種類にしてみました。
あと、軸をまっすぐにしないで、ナナメにして動きを出しました。
-: そうやって描きながら直していくのは、日下さんにとって楽しい作業ですか。
徐々に修正しながら、ゴールに到着するわけです。
日下: 到着した時は素直に嬉しいですし、自分にとって、そこに至るまでの道のりはとても大切です。
文様が、カタチにはまる時
-: 八角小鉢は今回の新作です。
日下: まず形を作って、それに合う文様を考えました。
それまで、小皿は結構あったのですが、小鉢・・・というか豆鉢がなかったので、作ってみました。
小ぶりで深さがあるもの。
-: 八角、好きですか?
日下: 八角、好きです。
言われてみれば、私、八角多いですね(笑)。
なんで六角じゃなくて八角なんだろう。
-: そういえば、六角ないですね。
日下: 六角高台くらいですね(笑)
-: (笑)
日下: 今まで気が付きませんでした。
次、六角作ってみます!
-: 文様もうまく、はまりました。
日下: 料理を盛ったときに、ゴスと余白のチグハグが面白いかなと思いました。
-: 規則性はありますが、一瞬不規則に見える感じがよいですね。
日下: 文様が形にちゃんとはまってくれて、ホッとしました。
-: かたちに、はまる・・・
日下: 絵付けがかたちにピタっと。
「これにはこれしかないよな」という組み合わせ。
絵付けにしても、配置にしてもそうだし・・・。
話し、わかりますか?
-: あ・・・、はい。分かります。聞いていますよ(笑)。
今回、これは自信作ですね。
日下: あと、アジサイ。
-: 早く、アジサイの話したそうですね(笑)。
アジサイが好き
-: じゃあ、アジサイ、行きましょう。
日下: スミマセンね! とても気に入っているのです。
-: 謙遜ばかりする日下さんが自信を持って薦めてくれるなんて、珍しいです。
日下: これ前回も見本で出しておいたんですけど、普通に松井さんスルーしていましたよ。
「これはいいです」とか言っていた。
「あ、通らなかった」とか思って・・・(笑)。
-: スルーされた方は覚えていますね・・・(笑)。
スミマセンでした。
日下: そうですよー。サーって。
-: アジサイを選んだのは?
日下: アジサイはうちにも咲いていますし、爽やかですよね。
グラデーションで、色味もいっぱい入っているし、大きいけど、うるさくないというか。
文様にするのには時間が掛かりました。
この紫紺とゴスは初めての色使いで、あまりやったことなかったのですが、自分ではうまく行ったなと思っています。
-: 染付にすることは考えませんでしたか。
日下: 考えましたが、単調な感じになるなと思って。
このゴスと紫紺の微妙な違いが面白いな、と思っています。
-: 色々なお話有難うございました。
こうしてみると、随分と文様やかたちのバリエーションは広がってきたのですね。
企画展が楽しみになりました。
宜しくお願いします。
日下: 宜しくお願いします!