安江潔インタビュー


interview01

岐阜中津川に安江潔さんを訪ねました。
粉引、灰釉、黒陶などを中心に制作する安江さんですが、

5月の「私のしごと、私のうつわ」展に向けてはいつもと違ったことも考えられているようです。

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花田: 安江さんが陶芸を始めたのにはきっかけは何ですか。

安江:たまたまです(笑)。
20代の頃、自分の将来について考えていて出てきたのが焼き物だったんっです。
たまたま焼き物の世界を知ってから自分に合っているな、と。
同時に、焼き物の魅力への思いも 強く実感していくようになりました。

─ 最初から目指していたわけではないのですね。そうやって力んでいない方が安江さんらしいです。

安江:そう、その後も、特定の「――焼」やろう、というのもなかった。まったくなかった。
実用的で・・・一定の品質をクリアしていて・・・造形が美しくて・・・それでよかった。
でもそれが一番難しいんだけど(笑)。

─ いつも感じるのは、安江さんのうつわの持つ「切れ」です。
シャープというか。あまりコテコテしていないし、
「僕を見て、私を見て」というのはないので、すっきりしています。

安江:わたしのうつわづくりの柱は4本あって、
「技能」 「窯業技術」 「造形感覚、センス」 「やきものの背景にある文化」
その四つが充実すると必然的にうつわもよくなってくる。

─ まず技能。

安江:当然ですが、いわゆる職人としての個人の「腕」ですね。轆轤(技術を始めとした数々の技能です。

─ 普段話をしていると、焼成法などは色々とデータ検証されているようで。

安江:それらが窯業技術です。 どんな原料をどんな風に焼き上げるかという。
勿論テストは重ねます。材質を決めるためでもあるのですが、
データの比較は過去の自分と今の比較でもあります。
10年前の自分のものと比べるとずいぶん変わっていますよ。一方で普遍のものもあるし。

─ そして造形。

安江:姿。スタイル。そして、佇まい。 うつわの存在感そのものも含まれてきます。

─ 文化

安江:風土や伝統に基づいていて自分自身の中に流れるものです
。 食文化が占める割合が多いような気もしますが、私のしごと全体を覆い尽くすようなもので、
全体のバランスをコントロールするものなのでしょう。

─ そんな中での5月の「私のしごと、私のうつわ」展。構想はすぐに固まりましたか。

安江:しばらく考えて出た答えは 「最初から最後まで」。
材料(土)を探り当てるところから自分の手で取り組んでみたい、と。
普段はなかなかそこまでできないんです。

─ この中津川あたりは瀬戸の源流に位置しますよね。
いい土があってもおかしくないです。
前から眼をつけていたのですか?この場所に。

安江:あるだろうな、と。噴火口もすぐ近くにありますし。
ここから木曽川の流れに乗っていい土が美濃、瀬戸方面に流れこんでいったようです。
昔はあのあたり湖だったらしいですから。
いずれにしても、この辺にはいい土あるだろうな、って以前から思っていました。

─ 見事に見つかるわけです。

安江:あの山の麓ですよ。で、まず作ったのがその上流の土を使ったこの飯碗です。
山で風化したものを第一次残留カオリンと呼びますが、もとは花崗岩です。

─ 普段は使えない土だとお話しされていました。

安江:最初ここに来た時は色々やってたけど、普段の実用には到底使えない。
手間も費用も尋常じゃないから。それに、量に限りがあるので。
それだけに今回は、自分で探り当てた土で作ってみたかった。夢がかないましたよ。

─ そうか、それでしばらく諦めていたんですね。夢がかなってよかったです。
飯碗としては非常にインパクトあります。いつもより重厚で、思いが詰まっている気がします。

安江:数はそんなにできないですけどね。何度も言いますけどある土の分だけです。

─ 無理な注文出されないように、予防線張っているでしょう(笑)。
いずれにしても、安江さんにとっての「私のうつわ」は土、つまり材料が起点だったのですね。

安江:やきものの原点、というかね。
昔の人は全工程をこなしていたわけです。
スタッフをかかえながらやっていても、個人でやっていたとしてもね。
それを自分でやってみたかった。
「私のしごと、私のうつわ」 に向けては、「作ってみたいもの」、
「使ってみたいもの」という比較の中でいえば、
「作ってみたいもの」の部分が大きかったかな。
憧れなのでしょうかね。

─ 今回のうつわは飯碗以外も素敵ですが、
こうして使ってみたい、こうして使ってほしいなんて言うのはありますか?
たとえばこのビアマグはいかがでしょう。

安江:僕の場合、ビールってなんか大きな器で
< 長時間かけて飲むのはあまり好きではないんです。
冷えているうちに飲み干してしまいたいのです。
で、陶器だと泡立ちも違いますからね。

─ グラスやタンブラーはあるけど、小さめのマグは珍しいです。

安江:そうですね。毎日自分で飲みたいな、って。

─ 基本的にはビールだけですか?

安江:いえ、なんでも飲みますが(笑)、一番口にするのはやはりビールです。

─ 飯碗はいかがですか?

安江:炊き込みごはんなど良さそうです。

─ 納豆ごはん?

安江:ちょっとそれには大きいかな。

─ カフェオレなんかでも・・・。

安江:いいですね。色が合いそう。

─ 安江さんのポット初めてです。

安江:そうですね。花田さんでは初めてですが時々は作ってきました。
茶こし、湯気穴、注ぎ口等々色々工夫しました。

─ いつもの安江さんの延長線上にありながらも、
とてもスペシャルなうつわを作ってくださりました。
ありがとうございました。

安江:憧れに手が届いたいい機会でした。さあ、企画展までにしっかり作ります。

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