花月窯インタビュー 2018年の新作編


「使える黒」を目指す

花田: 来月の展覧会に向けて、新作についてお話しを伺いたいと思います。
お互い、突っ込み合いながらのやり取りが楽しみです。(以下 花田-)

宮岡: 二人ともボケ役です(笑)。

-: 突っ込み役がいませんね(笑)。
まず、志村さんの黒。

志村: 最近、こういう黒を作っています。文様は筆で白い土をのせてゆきます。
李朝の初期後半から中期前半くらい以降、こういった装飾が出てきます。



-: やってみようと思ったきっかけは何ですか。

志村: 長江(惣吉)さんのところにいた時に、天目を見ていたので、元々黒に惹かれていました。

-: 長江さんが取り組んでいる黒とは違いますが、黒の魅力に気付いたきっかけになったわけですね。

志村: 一方で、北宋などのカチッとしていて緊張感のあるものは自分の仕事ではないな、とも思っていました。
その後、安宅コレクションやソウルの中央博物館で李朝のものを見て「いいな」と思いました。
元々は梅瓶、或いは大きいものが多いのですが、現代でも使える食器も作ってみたかったです。
時間は掛かりましたが、ようやく黒が良い感じに出るようになりました。

-: 「使える黒」の実現は大変でしたか。

志村: 自然の鉄だけでこの黒を出したかったんです。
焼き方のコンビネーションを試行錯誤して、この黒に至っています。

-: もともと、志村さんは素材を大事にされています。
自然の鉄だけで出す黒を目指すことの意味は何なのでしょうか?

志村: 加工されたものを使うと簡単に色々できますが、出来上がったものを見ると何か違うんです。


赤身も白身も

-: 色々、ご自身でも使ってみましたか。

志村: もちろん!赤身なんかは映えます。

-: と言われると、白身も映えそうです。

志村: でも、そば猪口を作ってみましたが、お茶は色が楽しめないし・・・。
真っ黒いもの飲んでいるみたいで「これは合わないな」と。
そばつゆも、よく見えない・・・。
ブラインドテイスティング状態になってしまいます(笑)。

-: 文様のモチーフはどのように選んでいるのですか。

志村: この菊は、初期伊万里あたりから。
こちらは李朝では典型的な如意雲です。
モチーフは、見た目の格好良さや形との相性で選びます。



-: 志村さんの新しい「黒」、宮岡さんから見ていかがですか?

宮岡: え?!

-: 突然質問してスミマセン。

宮岡: 油断していました。
「ああ、そうなんだー」とかボーっと聞いていた(笑)。

-: 最初見た時、どんな印象をもたれましたか。
「いいじゃん」みたいな感じでしょうか。

宮岡: ・・・・・。そうですね。「いいじゃん」って感じです。

志村: あまり見ていないんですよ。多分、興味がない。

-: (笑)

宮岡: そんなことないよー、見ているよー。

志村: 展覧会の会場で「こんなの作っているんだね」って聞かれますもの。

宮岡: そうそう、展覧会で発見することあるよね。

-: 思いっきり、お客さん目線ですね(笑)。

宮岡: 自分のものを必死に作っていることが多いので。
志村も同じだと思いますよ。

志村: そうかもしれないね。

宮岡: それに「なにやっているの?」って、いちいちねえ(笑)。

-: お二人のスタイルなのですね。



うつわの持つリズム

-: この角皿も、格好良いですね。

志村: メザシとか。



-: 掛分を少しずらしているのが目を引きます。
良いバランスですね。

志村: 三島の部分は、ちゃんと整列しているものもし、それぞれが跳ねているものもあります。
気をつけるのはそれぞれが、それぞれに成立していること。
言い換えると「リズム」とでも言えましょうか。

-: リズム。

志村: はい。
揃っていても、曲がっていても、それぞれのリズムが感じられると良いなと思います。


美味しかったひつまぶし

-: さて、次はこれです。



志村: これは象嵌です。ひっかいて、黒い土を埋め込んでいます。
李朝初期の中間くらいから出てきたものあたりをベースにしています。
今までは白の象嵌が多かったのですが、黒の象嵌も増やしていきたいと思います。

-: この文様、モチーフは何ですか。

志村: 恐らく牡丹を簡略化したものです。

-: 宮岡さん、これは今初めて見ましたか?

宮岡: これは見たことあります(笑)。

-: これは鉢ですか。大き目の飯碗に見えないこともないですが。

志村: 山盛り食べる人用(笑)。

宮岡: 小丼ぶりですかね。

志村: 煮物でもいいし、ビビンバとか。

宮岡: ミニビビンバだね。

志村: 煮麺とか角煮とか・・・。デザートでも良さそう。

-: あ、角煮いいですね。ブロックの感じで。
ブロックといえばマグロのぶつにトロロかけて盛り付けたらキレイでしょうね。

志村: お茶漬けも良いと思う。

宮岡: ひつまぶし。

志村: あまり家でひつまぶしはしないけどね。

宮岡: 築地でウナギ買ってきて、やってくれた時はとても美味しかったよ。

志村: そんなことあったね。

-: 捌きからですか。

志村: えぇ。

-: 流石ですね。

志村: 実家がてんぷら屋で、実家にいたときは穴子を毎日100はさばいていたので、まあ何となくできるんですよね。

-: 体の構造は一緒ですか。うなぎとあなご。

志村: 骨の断面の形が少し違いますが、基本的な構造は変わらないと思います。
そうそう、最近は白磁もやっているんです。

-: 李朝の白磁なら、宮岡さんの白磁とも違うでしょうし、バリエーションが増えますね。



わざわざ瓢にしておきながら・・・

-: 続いて、宮岡さんの新作にいきましょう。

宮岡: きちゃった、私の番・・・。

-: (笑)。
いかにも人気の出そうな、このひさご。

宮岡: 古伊万里の模しです。瓢の上に、恐らく瓢の葉が重なっています。

-: こうやってモチーフを重ねるの、よくありますよね。
宮岡さんにとってこのうつわの魅力は何ですか。

宮岡: わざわざ瓢にしておきながら、葉で隠してしまうというのが面白くないですか。
変形を作っておきながら、ドドーンと葉っぱを真ん中に乗っけてしまうという・・・。
更に余白を七宝で埋めつぶすのもなかなか。
構成がとても面白い。



-: 後ろにも可愛い絵付けがあって・・・。見どころ沢山です。

志村: 料理屋さんにも喜んでもらえそうだね。

宮岡: 白子なんか合うかな?

-: 白子のつけ焼きなんていいかもしれません。

志村: あぁ、タラのね。

宮岡: 今、ふぐの白子を想像していた?(笑)

志村: うん、ちょっとね。あ、でもタラですね。

-: まあ、どちらでも。僕はタラのつもりでした。

宮岡: (笑)

-: 宮岡さん、変形のお皿は他にもいくつか作られています。

宮岡: 魚型や、棕櫚が2つ重なっているものや・・・。

-: あの棕櫚も素敵でした。菊のものもありましたね。
変形のうつわの魅力って何でしょうか。

宮岡: 好きなのは、モダンさを感じるものです。

-: モダンさ。遊び心のようなものでしょうか。

宮岡: 部分的に染付をしたり・・・。「デザイン」が感じられるもの。

-: 志村さん、何かコメントありますか?

志村: えっ・・・これ?

-: 油断していましたか(笑)。
お二人とも、相手の話だと、リラックスして聞いているのですね。


「取らないで」

-: 仕事をしていて、お互い刺激や影響を受けることはありますか。

宮岡: 私はあります。

志村: 僕もあるよ。

宮岡: 私の作った型を取られそうになることもあります(笑)。

-: (笑)

志村: 「取らないで」って言われます。

宮岡: 「あれ、使ってないからいいでしょ」って言うんですよー(笑)。
まあどこかに持っていかれるわけではないので、いいんですけど。



-: 相互にいけそうな型、結構多いですよね。

宮岡: 面白いと思います。

-: この瓢も、いけそうです。

宮岡: 青磁なんか合いそう。
今度、型いろいろ取替えっこしてみようか。

志村: 使っていないやつね(笑)。


アンバランスを楽しむ

-: 続いて、このお皿も模しですか。

宮岡: はい。本物はもう少し大きいです。
「オランダのうつし+うつし」ですね(笑)。
伊万里がデルフトを模して、それを私が模しました。
リムの文様がオランダなのだと思います。
見込みは恐らく菖蒲ですが、これがすごく日本的な感じで、外の西洋的な賑やかな文様との組み合わせが面白い。



-: アンバランスに聞こえますけど、出来たものを見るとしっくり来ています。

宮岡: 写真で見たときには、そのアンバランスさが面白いなと思いました。


白磁輪花

-: そして、この輪花。僕が持参した古伊万里ですね。
有難うございます。



宮岡: やってみましたが、後から見たら少し形が違いました。

-: 本歌はもう少し縁がフワッと膨らんでいます。
でも、全く気になりません。

志村: 本歌は、作りがすごく薄いですよね。

宮岡: あれを再現するのは、私の使っている土と釉では無理です。

-: あそこまでやる必要はないと思います。
あの薄さを取り込んで欲しいわけではなかったので。
縁の鉄の感じも丁度良く出るものですね。

宮岡: それは偶然かと思います・・・。

-: (笑)。
宮岡さんが元々作っていた縁鉄の白磁の輪花深皿を見ていたので、あんな感じで作ってもらえたらいいなと思っていましたが、その通りになりました。
これは、何に使いましょうか?

宮岡: 何でも使えますね。

-: 酢牡蠣はいかがでしょう。

宮岡: 食べたいですね。デザートもいいですよ。
まめかん、アイスクリーム・・・。

-: 涼しげで良いですね。


展示会に向けて

-: それでは、2月に向けてそれぞれ一言いただけますか。

志村: お先にどうぞ。

宮岡: え?

-: 譲っているフリして、時間稼ぎ(笑)。

宮岡: 花田さんで何回かやっているうちに、お顔が分かるお客様も増えてきたので、お会いできるのを楽しみにしています。
同じところで何回かやっていると、段々居心地よくなってきて、楽しくなってきます。

-: うつわは新しいものも定番もありますものね。

宮岡: 可愛い感じのモノもいくつかありますので、ご覧頂きたいです。

-: さあ、志村さん、考える時間は十分でしたか(笑)。

志村: 今回は渋め系で・・・。まあ、いつも渋いですけど(笑)。

-: 更に渋いと。

志村: 古典にオリジナルの文様をいれたり、今までの定番も色々作ったりしましたので、是非お越し下さい。

-: 白磁も出てきますか?

志村: ほんの少しですが、間に合うと思います。

-: 有難うございました。



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