余宮隆さんインタビュー 2022


こんなの出来ちゃった

花田:余宮さん、ここにきてご自身の仕事を見直されているそうですね。(以下花田-)

余宮:最近は、自分が本当に作りたいもの、焼きたいものを作っています。

-:仕事の仕方にも変化はありますか。

余宮:以前のように色々考えなくなりました。
「まんまるよりは四角いほうが売れるんじゃないか」みたいな。
そういうの、あるじゃないですか(笑)。
それと「まんまる」で勝負するためには相当ろくろがうまくないといけないわけで…。
今までは自分のつくる「まんまる」に納得できない部分もあったのだと思います。

余宮隆インタビュー2022

-:かたちも考え方もシンプルになってきたのですね。

余宮:それに、ロクロを引くのが楽しいです。
例えば、マグカップにしても、しのいで質量を減らすことをせずに、しっくりくる手取りを得られるようになりました。
うつわって、見た目も大事ですけど、手で持った感じや、唇で感じる口あたりも大事ですよね。
そういうことの意味が、理屈ではなく実感としてようやく分かってきた気がします。

余宮隆インタビュー2022

-:いまだに発見がありますね。

余宮:一年中、ここにいるでしょう。四季があるくらいで何も変わらない。
人ともほとんど会わない。生きていて刺激が欲しいんです(笑)。
若いころは友達と飲みに出かけたら楽しかったんですけど、今はそうことでもない。
そうなると仕事に刺激を求めるようになります。
周りを驚かすために作風を変えるのではなく、自分のためなんです。
「わー、こんなのできたぞー」って、夢にまで出てきますから。

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-:前向きですねー(笑)。

余宮:「ああ、夢に出てきたからやってみよう」って。

-:ある時、数学の研究をしている知人が、受験前の高校生にものの学び方や考え方について話している動画を見つけたんです。
聞いていたら「『成功ばかり』なんて、そんなものは決して褒められたものではない」って。
続けて「『成功ばかりで、失敗をしたことがない』などというのは、簡単なことしかしていないだけだ」と。
まあ、その人らしいなと思いながら聞いていたんですけど「でも、失敗100%に耐えられるほど人間はタフでもない。成功と失敗のバランスは人によって違うけど、両方あるべきだと」って締めくくっていました。

余宮:そうですね。そもそも、僕の場合、うまくいくことが何だかよく分からないですけど(笑)。

-:そもそもね(笑)。
いずれにしても「こんなの出来ちゃった!」というのは、こういう仕事をしている楽しさですね。

しっくりくるイイ感じ

余宮:最近はロクロの弾き方も良く変えます。
言葉だと説明しづらいのですが、ここの左手のこの角度をこうするとか、こうするとか…(身振り手振りで)。

-:おそらく、他人には分からないような部分ですね。

余宮:そうです、そうです(笑)。分からないと思います。
でも、そうすると「手に取った時にイイ感じ」なんです。

-:手に取った時のイイ感じ…。

余宮:言い換えると「バランス」ですかね。見た目、持った感じの両方の意味で。

-:見た目と実体の重量感みたいなものが、いいポイントで一致している感じでしょうか。

余宮:そういうときって、人ってアドレナリンが出ると思いません?

-:(笑)。あがりますよね。

余宮:うつわ好きの人たちの喜びや楽しみって、フィッティングしてしっくり来た洋服に出会ったときの「イイの見っけ!」に近いと思うんです。
古着屋さんで、5着くらいTシャツ買ってきて、1枚でもすごい着心地が良いのがあると、そればかり着たりするじゃないですか。
そういうものじゃないですか、うつわって。

-:それを着ていると気分もいいし、振る舞いも生き生きとしてくる。

余宮:多分、しっくり来ているんです。
話が戻りますが、しっくりくるなら「まんまる」でいいんです。
しっくりくるなら、ですよ(笑)。

思い出す20年前

-:余宮さん、独立されてから20年です。独立当初を思い返されることもありませんか。

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余宮:あらためて、昔作っていたものを見ていると、物によっては10年とか20年前のものの方が良かったりします。
結局、表現の幅なんて限られていて、昔から同じようなことを繰り返しているので、慣れてくれば作業自体は上手になってきます。
でも、上手になる前のモノのほうが魅力的に見えることもあるんですよね。

-:「こなれる前の一生懸命さ」でしょうか。

余宮:そうそう。
最初は電気炉しかなくて、それでも薪窯で焼いたように見てもらうために、色々小細工したり…そういうものの方が面白かったりもするんです。

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-:先が読めない中でやっているのが、いいのでしょうね。

余宮:昔は先のことなんて全く考えていなくて「その時、どううまく焼くか」だけでした。
今だったら「電気炉故障するよな」と思うような無茶も平気でやっていましたから(笑)。
今はそんなことしなくても、できるんですよ(笑)。
登り窯で焼けば済むことですから。

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古民家の改修

-:今思えば「20年前の一生懸命で無茶」かもしれませんが、今の余宮さんだって当時のようにリスクを取って何かをしようとしているのではないでしょうか。
この古民家の改修もその一つだと思います。
僕はこの古民家の改修は、本当にすごいことだと思います。
建て直すほうがよっぽど簡単。しかも他人の持ちものですよ(笑)。
それでも、自分にとって大事な場所であると信じているからこそ、そこをなんとか維持しようとする。その意思と具体的な行動を見ていると、ご自分の仕事を本当の意味で大切にされているんだなと感じます。

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余宮:例えば、焼き物で成功して、いい家に住んで、いい車に乗ってというのであれば、絶対だめですよね。

-:そういうことを一番に望むなら、そもそも焼き物を仕事に選んでいないんじゃないですか。

余宮:やっていないです。焼もの、ほんと割に合いません(笑)。
ほとんどの焼き物屋さん、独立するとき、お金ないですよね。
でも設備投資が必要だから、必ず借金から始まります。
さらに僕の場合、この古民家に出会ってしまった。
そろそろ軌道に乗ってきて「海の見えるところに家でも建てようかな」なんて考え始めると、今の自宅が白蟻にやられて、急遽この古民家に移り住むことになる…(笑)。

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-:この先も、色々ありそうですね。

余宮:一生、思った通りになんていきませんね。
ようやくそれに気が付きましたよ(笑)。それが僕にとっての焼き物の仕事です。
そもそも、登り窯にいれて思った通りになんて焼けるわけがないんだから(笑)。
「自分は運がないなあ」なんていうことではなくて「そんなもん」なんですよ。
それが、海が見える気持ちのいい丘にいい家なんか建てられてしまったら、面白くないんじゃないかな。

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-:そうなったらそうなったで、人って「昔はよかった。仕事がつまらなくなった。自分が本当にしたかったのはこんなことだったのか」なんて言い出す(笑)。

余宮:(笑)。こういう古民家を工房にして、維持を続けていると、エンドレスに楽しめます。
次から次に頭を悩ませますが、それをまた作ることに活かせるというか…。

-:この古民家の悩みがあるから、仕事での苦労も忘れられるし…。
余宮さんの中で独特のバランスがあって、この天草という場所がすごくそれにあっていたのでしょうね、そういう生き方に。

余宮:「僕が」というより、天草がそうさせてくれている気がします。

余宮隆インタビュー2022

個展に向けて

-:展示会、宜しくお願いします。

余宮:現在は作風を変えつつあるところで、新作ばかりになると思います。
新しい取り組みの真最中なので、そういう意味では暴れまくっているところを見てほしいです。

-:余宮さんと一緒に僕らも試行錯誤できますね。

余宮:買い足しできるものも、もちろん作りますけど「このアイテムにこの釉薬を今回かけたんだなあ、どういう意図なんだろう」とか…そういうのを見てほしいです。
粘土も色々です。粘土って大事ですから。

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-:新作だと、余宮さんの意図が焼き物の中にフレッシュな状態ではっきりと残っていますね。
楽しみです。よろしくお願いします。

余宮:こちらこそ、よろしくお願いします。

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