ワダコーヘーさん インタビュー 2023


ガラス、ガラス、大工、ガラス

花田: ワダさんがガラスの仕事をするようになるまでのお話をお聞かせください。(以下花田-)

ワダ: 普通の大学の文系学部を出て、普通に就職しましたが、しばらくして、元々好きだったモノ作りを仕事にしたいなと思い始めました。と言っても、漠然と考えていただけなので、陶芸かガラスくらいしか思いつかないんですよ(笑)

-: それでガラスを選ばれたのですね。

ワダコーヘーさん インタビュー 2023

ワダ: 富山ガラス造形研究所に行くことにしました。
そこはどちらかというと、アーティスト志向でしたので、オブジェ中心の制作をしていました。
鋳造で(石膏型にガラスを流し込んで成形)、おもちゃのピストルをガラスで作ってみたり・・・。そういうことばかりやっていました。

-: ガラスについて色々学ばれたのではないですか。

ワダ: ガラスは基本的にはホットワーク、コールドワーク、キルンワークの3つに大きく分かれるのですが、富山はそれらを満遍なく教えてくれる場所です。
富山の後は、瀬戸の新世紀工芸館のガラス科にいました。瀬戸は焼き物の町ですけど、珪砂というガラスの原料も取れる場所です。

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-: その後はどうされたのですか。

ワダ: 実は、一旦ガラスをやめているんです。大工さんのところで、修行のようなことを始めてしまいました。まあ、そこではよく怒られましたねえ(笑)。一日中走り回っていた印象です。

-: 意外な流れです。ワダさんの今の仕事が世の中に存在しなかったかもしれないのですね。よくガラスに戻ってきてくださいました。

ワダ: ただ、3カ月くらい経った時に事故にあって、大けがをしてしまいました。その時は、山に入っての仕事だったので、そこから救急ヘリで搬送されて・・・。
病院で意識が戻った時に親方が「まだ戻ってきていいからな」って言ってくれたんですけど・・・。

-: 親方が「戻ってきていい」と思っていても、和田さんが「戻りたいかどうか」は別の話ですよね(笑)。

ワダ: そういうことです(笑)。でも、あの経験は本当に貴重でした。短い期間でしたけど、悔しさやら嬉しさやら、自分の感情の振れ幅の大きさを知ったので。まあ、とにかく厳しくて、限界まで追い込まれていましたから。社会の洗礼・・・ですかね。

-: 相当極端な洗礼ですけど。

3つのこと

ワダ: しばらくして、川崎の彩グラススタジオに入ったのですが、あらためて、吹きガラスを学び直すことが出来ました。今考えると、富山や瀬戸でも上手い人の技術を見てはいたのですが、自分にそれを見る目がまだそなわっていなくて、ちゃんと理解できていませんでした。

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-: そこで見えてきたものとはどのようなものだったのですか。

ワダ: 成形する上で大事なことが頭の中でまとまりました。言葉にすれば「温度」「回転」「軸」の3つです。

-: まず「温度」とはどういうことでしょうか。

ワダ: ガラスが気持ちよく膨らんでくれる温度、作業しやすい温度の管理です。温度が低いと、ムラになって膨らんでしまいます。
ただ、とどまってほしいところもありますので、全部焼けていればいいというわけではありません。「動かしたいところをどれくらい焼いたらいいのか」ということです。

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-: 「回転」とは何でしょうか。

ワダ: 吹きガラスは竿を使って常に回しながら作りますが、その回転のことで、作業によってそのスピードを早くしたり遅くしたりしています。
例えば、形を決めたいと思ったところで、一気にスピードを上げることもあります。

-: スピードが十分でないと、どうなってしまうのですか。

ワダ: 例えば、足付グラスなどの足は、ガラスの塊を下につけて、道具で広げて作るのですが、その時に回転が遅くて、押す力に合っていないと「広げる」というより「潰す」感じになってしまいます。「回転する力」と「押す力」を合わせることで、キレイに丸く広がっていきます。

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-: 三つ目の「軸」とは?

ワダ: 吹きガラスは、回しながら作るので、基本的には線対称です。軸というのはその対称軸のことで、そのセンターをちゃんと取る必要があります。そこがブレてくると安定感の無い作品になってしまします。

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自分ならではのガラスの仕事

-: ワダさんの目指すガラスのうつわはどのようなものですか。

ワダ: ガラスの技法自体は古代ローマからあまり変わっていないので、ヒントを探そうとすると、どうしても古いモノになります。 特に古くから残っているものって、見た目にも技術的にも無理のないものが多いんですよね。
僕はベネチアングラスが好きなのですが、そういうものに学びながら、自分の作品には、現代的な印象を加えていきたいと思っています。

-: ワダさんの作るガラスはシンプルですけど、かたちにひとひねりあります。

ワダ: 手作り以外で安価で丈夫なグラスって、世の中には沢山あります。僕自身も使っていますし、その安心感や使いやすさは理解しているつもりです。その上で、作家として作るのであれば、それらには無いものを加えていきたいと思っています。

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-: 今はランプにも力を入れられています。

ワダ: グラスなどのうつわを作る時は、最初から理想とする形をもって、作業を積み上げていくのですが、ランプは、自由に発想できるし、作っていて楽しいです。

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キョロキョロ

-: これからワダさんの世界が出来上がっていくのが楽しみです。

ワダ: 最近つくづく感じるのが「できることしかできないな」ということです。当たり前の話ですけど、自分の技術以内の事しか出来ませんよね。その範囲を広げていくしかないなと。

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-: それと共に、発想やアイデアも広がっていくわけですね。

ワダ: 発想で言うと、無意識にいつもキョロキョロしていると思います。「なにかガラスに置き換えられるもの、ないかな」って。ショッピングモール行ってもキョロキョロ、道を歩いていてもキョロキョロ(笑)

-: 僕が普通に見ている町の風景も、ワダさんには別様に映っているのでしょうね。

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展望

-: これからやっていきたいことはありますか。

ワダ: 今は独立したてで、自分一人での作業です。「腕がもう1本あればいいのにな」「もう2本あればいいのにな」としょっちゅう思います。
吹きガラスはチーム作業が前提なので、一人でやっていると、成立しないことも多いです。人数が増えていけば―例えば、僕のグラスで言うと、ステムの部分にもっと色々な工夫もできます。作れるもののパターンも増えると思いますし。
そういうこともあって、これから自分の制作チームを作っていきたいなと思っています。何年先になるか分かりませんけど。

-: 有難うございました。何か言い残したことありますか。

ワダ: こんな話で大丈夫なのでしょうか。あまり人に話したり説明したりするのは得意ではないので・・・。

-: いえいえ、そんなことないです。有意義なお話でした。有難うございました。

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