増渕篤宥さんインタビュー2019


増渕篤宥さんインタビュー

祖父の残したものから

花田: 彫りの仕事を始めてからどれくらい経ちますか。(以下花田-)

増渕:10年くらいです。
2007年くらいから少しづつ始めて、2010年くらいから皆様に見ていただけるようになりました。

-:最近は新たな雰囲気を持つものも出てきています。

増渕:今までは、幾何学パターンが主でしたが、最近は具象にも手を出しています。

-:進化してきました。

増渕:正直言って、進化なのか迷走なのかは自分でもわかりません…(笑)。

-:しばらくは、まじめに話を進めていきたいと思います(笑)。
さて、具象を取り込んだきっかけは何かあったのでしょうか。

増渕:祖父の残したものです。

-:おじい様、彫金の仕事をされていました。

増渕:そうそう、もともと美術学校では彫金を専攻していたのですが、卒業後木彫の仕事を経て技師として工芸全般の指導をしていた時の資料を、20年くらい前に実家の倉庫で見つけたんです。
こういうのがあったんですよ。
まあ、黙って持ってきちゃったんですけど。

増渕篤宥さんインタビュー

-:昭和15年ですか…。
中、写真撮ってもいいですか。

増渕篤宥さんインタビュー

増渕:うーん…、祖父がどう思うか…。生きているうちに断っておけばよかったな(笑)。
とりあえず、表紙だけにしておいてください。スミマセン。

-:(資料を見ながら)これは、やきものですよね。朝鮮ですか。

増渕:当時、戦前ですよね。その中、朝鮮に元々あった焼き物は素晴らしいものでしたが、それを基にさらなる向上を目指し産業としての発展に努めましょうといった動きが、現地であったそうです。
それを指導する立場であっちに行っている時期があって、その時の資料なんだと思います。
「こういうの作ってみたら」って感じで現地の人に見せていたのでしょうね。

-:当時の人が見せられて作ったように、増渕さんも作ることになったわけですね。

増渕:そんなところです。
僕は勝手に見ていますけど(笑)。

-:今、魚の文様のうつわがありましたけど、現在、増渕さんもされていますね。
この資料がきっかけですね。

増渕:ええ。でも、これをこの絵のまま使っても、正直言って、あまり面白くないじゃないですか。

-:…。おじい様が描いたものを僕まで一緒になって「そうですね。面白くないですね」とは言えません(笑)。

増渕:ははは(笑)、確かに。
で、それを、こう今風…というか自分風にして。

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-:資料を通じて、当時のおじいさまの仕事に思いを馳せるような時間もあったのでは?

増渕:そうですね。「おもしろいな」と思いました。

-:結局、面白がっているし…(笑)。

増渕:これだけじゃなくて、遺品の中には、焼きゴテで絵付けをした竹工や、木彫のものもありました。
その当時指導していた職人さんたちのものもあったんです。
色々出てくるたびに「うぉー」っていう…。

-:「驚き」ですね。おじい様色々やっていたのですね。

増渕:祖父はもともと専攻が彫金でも、指導員なので一通りできなければいけなかったようです。

増渕篤宥さんインタビュー

まずは唐草から…

-:ずっと前から資料は見ていたけど、実際作るようになったのは最近ですね。

増渕:「いつかはやろう」とずっと思っていたのですが、「いつやろう」というタイミングはなかなか来ませんでした。
思い立ったときにやっちゃうのが、手っ取り早いんでしょうけど。

-:新たにやりたいことがあるのは幸せなことだと思います。
唐草もたった今作業を見せていただきました。
ほかに何かモチーフはありますか。

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増渕:今は唐草をまとめるのに手いっぱいですが今後の構想はあります、まだ充分に手が決まってこないので乞うご期待といったところです。

-:出来上がるものの雰囲気も変わってくると思いますが、作っていていかがですか。

増渕:「思ったより難しい」より、難しかったです。

-:(笑)?「思ったより、はるかに難しい」ということでしょうかね。

増渕:「さあ、どうしようか」から始まりますから、作業を始める前の考える時間も長いです。
その内慣れてくるとは思います。
あと、骨書きのあとの、彫りの前後での見え方の違いが大きいです。
幾何学と違って、最初はアウトラインで文様が目に入ってきますが、
彫った後は線の内側で文様が目に入ってきます。
そうなると、実際大きく描いたつもりでも、小さいんですよ。
「あれ、小さい…なんだこれ」っていう。ほとんど余白になっちゃって(笑)。
とにかくすごく小さく見えるんですよ。

-:ここまで力説されるということは、よほど小さくなってしまったのですね(笑)。

増渕:彫ったほうに目線が向くからだと思うんですけど、とにかく、小さいです。
焼いたら、さらに小さくなって、しまいには見えなくなってしまう(笑)。

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決してランダムではない

-:線引きはいかがでしたか。

増渕:幾何学以上に、スムーズに刃物を動かす必要があります。

-:幾何学のような連続文様は、リズムとかテンポを大事にしつつ決まった動きのユニットの組み合わせと繰り返しだと思うんですけど、具象だとランダムな動きも増えてくるのでしょうか。

増渕:難しいですが、そこまでランダムにもなりません。
寧ろ、曲線などのパターンが増えてきたので、具象に取り組めるようになった部分もあります。
複雑にはなっていますが、作業の原則が変わったわけではありません。

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奥行を出す

-:最初の窯出しはいかがでしたか。

増渕:最初は「やべえな」って思いましたよ(笑)。 「話にならないな」と。平面的なんです。
奥行を出そうと思ってわざわざ彫っているのに、平面に鉛筆なんかで描くより平面的になってしまって…(笑)。

-:どういうことでしょう。

増渕:最初でテンション上がっていたし、多分、自分の気持ちを盛り込みすぎたんだと思います。

-:いいですね。
ここまでキャリア積んでも、自分でコントロールできないくらいテンションが上がる仕事って。

増渕:まあ、そういう言い方もありますかね(笑)。

-:彫りの「深い」「浅い」も気を使われましたか。

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増渕:彫りの深い浅いに関しては、大体のグラデーションは予測できるので、そうでもありませんでした。
それより、彫る方向が一定ではなくなるので、どう彫り進めればスムーズに全体を描き切れるかと、彫り跡をリズミカルに見せるにはどうすれば良いかということは考えるようになりました。

-:超絶技巧に自由さや楽しさが加わって、仕事がより魅力的になってきたなというのが僕の感想です。

増渕:それだとうれしいです。


これからもこの仕事を

-:彫りの仕事、作り手として面白く感じていることを教えて下さい。
他の作者の方々がしないことを、増渕さんはこれだけ続けているわけです。

増渕:している仕事について自分の向き不向きや、好き嫌いは、ほとんど考えたことありませんが、やっているうちに自らの手に馴染んできている気はしています。
ただ一方で何年やってもまだ発見がありそうな気がします。
常にそれを感じる。その辺の両面性でしょうか。

-:道具も常に更新されていきます。
先ほども制作中に新たに道具を作られていました。

増渕:刃の枚数を複数にしたり、向きを変えたり、その刃の間の幅を変えたり…
色々進めていくと足りない道具が出てきます。
今使う道具は今欲しいですから、その時作ることも多いです。

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火のあるべき場所

-:次の展示会に向けて。
色のバリエーションも増えそうです。

増渕:飴釉と生成りですね。
桜色はギリギリ間に合うかな、って感じです。

-:言い残したことありますか。
そろそろ面白い話とか…。

増渕:最近は火事のことで頭いっぱいだから(最近増渕さんのすぐ隣で火事がありました)。

-:火事にもめげずに突き進むということですね。

増渕:そうですね。 火は窯の中に閉じ込めておきたいものです。

-:おっしゃる通りです。
有難うございました。

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