漆の里、浄法寺を訪ねて


漆のはなし

漆の里、浄法寺を訪ねて

2017年10月15日、岩手県二戸市と岩手県浄法寺漆生産組合が主催で行われた浄法寺漆共進会へ行ってきました。
今年採取された浄法寺の漆が一同に並び ひとつひとつ漆の品質を確認する品評会です。
国産漆の最高峰、浄法寺漆の品質が高い水準で保たれる背景には
漆に携わる多くの人の、たゆまぬ努力がありました。


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浄法寺漆共進会、このネーミングがいいですね。
確かに品評会ではありますが、皆で一緒に向上して行こうという誠実で前向きな印象を受けました。
それはこの後の会場の様子からもうかがい知ることになります・・・


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漆の木の一生

国産漆は現在大変貴重なものです。
漆の木は成長するまでに8~13年と時間がかかりますが、漆を採取するのはたったの1年。
その1年で漆を採り尽くすため、1本1本に見極めと漆掻きの技術が必要になります。
「殺し掻き」という手法で採取し尽くした木は枯れてしまうので、その年に伐採してしまいますが
切り株から出た芽を育てて、また同じ営みを繰り返していきます。

※漆の掻き傷をつけることを辺(へん)といいます。
若い傷(主に下側)から1辺、2辺、3辺と数えます。


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会場にはこのような樽が並んでいました。
中身は生漆(きうるし)といって、採取したままの状態で漆が保管されています。

国産漆の最高峰、浄法寺漆。
漆の国内自給率はわずか1~2%。その貴重な国産漆の約7割が岩手県
浄法寺で生産されています。ウルシオールの含有率が高く上質な浄法寺の漆は
汁椀をはじめとする工芸品だけでなく、日本の国宝や重要文化財の修理・修復にも欠かせません。
京都鹿苑寺(金閣寺)修復では1.5tもの浄法寺漆が使われたといわれており
現在も日光二社一寺(二荒山神社、東照宮、輪王寺)
「平成の大修理」の保存修理においても重要な役割を果たしています。


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この樽が大小列になって会場に並び、審査を待っています。
同じ浄法寺の漆でも、掻き手によって品質に微妙な差が生まれるそうです。
また、その年の気候によっても変わって来るそう。
自然の影響を受けながら、ひと掻きずつ手作業で採取した漆は ひと樽ひと樽、大変貴重なものです。


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こちらは道具のスタンバイ。
この大きなヘラを使い、樽の中の漆の状態を確認するのだそうです。
自然な拭き漆の雰囲気に、道具の美が宿ります。


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岩舘隆さんと浅野奈生さん

今回ご案内いただいたのは塗師の岩舘隆さんと浅野奈生さん。
浅野さんは岩舘さんに塗りについて学んだそうです。
現在は独立し岩手県八幡平市に工房を構えています。


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紙の蓋を開けて色、艶、匂い、粘りの具合を確認します。
紙に漆が付く様子から粘りを見るそうで、塗り師の浅野さんから見ると
乾きの早いタイプが理想のようです。


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「ほら、漆のいい匂いするでしょ。わかんない?」と岩舘さん。
会場全体に甘酸っぱいようなホンワカとした匂いが漂い
樽の近くに顔を寄せると、一層匂いを感じます。

普段お店で取り扱う漆器、完成直後の汁椀を箱から出す時に感じる
漆独特の澄んだ匂いには慣れていましたが、
生漆は多少違う気がして、土や木の皮の匂いがするように思えました。



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漆の木の幹に横筋の傷をつけて滲み出してくる白い樹液をヘラで掻き取ります。
これを「うるし掻き」と呼びます。
国産の漆は風土の影響からか、採取する時期によって漆の状態が変わります。
漆の時期による区分は輸入漆にはない、日本産漆独特のもので
それぞれの特性を活かした塗りで、漆を大切に有効に使います。


初辺 (はつへん)

6月中旬から7月下旬まで採取される漆を初辺(はつへん)といいます。
初辺は比較的硬化が速い漆と言われ、仕上げに使われることが多いそうです。
蒔絵の仕上げにはみがきと拭きが繰り返されますが、拭き漆に初辺が適しているそうです。

盛辺 (さかりへん)

真夏の8月頃は粘度が低く伸びがよい盛辺(さかりへん)といいます。
汁碗の仕上げの上塗りに使われます。

末辺(すえへん)

9月上旬から下旬に採取した漆を末辺(すえへん)といいます。
粘度があるのが特徴で、乾きに時間がかかります。



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審査がはじまります

いよいよ審査が始まりました。
品質は色、粘度、 乾き(硬化)などから判断されるそうです。
チェックシートを携えて、ひとつずつ丹念に見る姿が印象的でした。


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先ほどの大きなヘラを樽の中に入れます。


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中で少し混ぜると、樽の表面の色とは違う色の漆が出てきます。


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糸を引いたように流れ落ち、いつまでも切れない漆。
生漆のなめらかな状態に驚きました。


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「この漆はいいね」
「いい色だな」
「これは掻く時のヘラがあってないね」
「ずいぶん力を入れて掻いてるなぁ」
審査の近辺では、興味深い会話が飛び交います。
いろいろと勉強になるので、一緒についてまわる方も多くいらっしゃいました。


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「これはイイ漆だなぁ、伸びがいいね」


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塗師の岩舘巧さんも、ひとつひとつ細かな確認をされていました。
顔に付くほど漆への接近の姿は、さすがですね。


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皆さんが次々に声を掛けてきます。
今年の漆の出来や傾向について話をされているのでしょうか・・・


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滴生舎の小田島勇さんも同様に、ひとつひとつ入念な確認をされていました。
そして皆さんが声をかけて行きます。
世代や業種を越えて、塗師、掻き手、その他漆に携わる人との交流が盛んです。
そのあたたかな雰囲気が会場全体に行き渡っていました。


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岩舘隆さんの所にも次々に人がやって来て声をかけていきます。
さすが岩舘さんですね。
大勢の仲間に頼られる岩舘さんの存在を大きく感じました。
そんな合間を縫って「ここ写真撮った?」「こっちは?」と気にかけてくださいました。


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取材の方々も多くいらっしゃいました。


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皆さんが交流し会場のあちこちで談笑されるなか、審査は次々に進んでいきます。


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和やかな中にも坦々と進んだ審査。
総数58個にものぼる漆の樽を、ひとつひとつ見て調べて審査が終了しました。


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審査をされた3名の方々。
左から町田俊一さん(町田俊一漆芸研究所代表)
及川守男さん(及川漆工房代表)
小林正信さん(岩手県工業技術センター)


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そして表彰式
盛辺(さかりへん)漆の部金賞受賞は、瀬古昌幸さん


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末辺(すえへん)漆の部金賞受賞は、泉山義夫さん


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初辺(はつへん)漆の部金賞受賞は、長島まどかさん


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長島まどかさんは、漆掻きを始めてまだ数年だそうです。
おめでとうございます!
これからの活躍が楽しみなホープですね。

浄法寺の漆を守ろうと、官民あげて多く人がこの伝統工芸に携わり努力を続けています。
文化庁は平成27年「国宝や重要文化財の建造物を修理する際には、国産漆を使用する」
との方針を決定しました。これまで以上に浄法寺漆はの文化への貢献は
高まり、その存在は益々貴重なものとなっていくことでしょう。

貴重な浄法寺漆をふんだんに使用した汁碗は、今年も秋から続々届きます。
是非お見逃し無くご覧ください。



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